六分儀編
春に見られる星座でろくぶんぎ座という星座があります。比較的暗い星の集まりなので実際に探すのは難しいかも知れません。17世紀の天文学者ヘベリウスが作りました。六分儀は天文学者にとって大切な観測装置だったのです。これは星の高さを測ったり、星と星との間の角度を測るために利用されました。一方、最近まで船乗りたちが使っていた航海計器にも六分儀というものがあります。GPSなどの衛星航法が用いられるまでの1990年頃までは太平洋を横断するなどの大洋航海では自船の位置を出すために活用されてきていました。これも天体観測器具としての六分儀と同じように星の高さを測ったり、角度を測ったりする装置です。その上で航海用六分儀は船上で使用するための機能を大切にしていました。船の揺れに対応するように、固定式ではなく手持ちで小さな機械。水がかかったり湿度変化にも強い全金属製。水平線がまぶしいときにも使用できるようにサングラスの設置などです。ヘベリウスが使ったような天文観測機器としての六分儀が航海用に変化したと言うより、航海用の四分儀が発展して六分儀が成立したと考えられるかと思います。ここでは航海用の六分儀に内容を向けます。
18世紀後半(1780年頃)にはキャプテン・クック主導の世界一周などが行われるようになり大洋航海も行われるようになってきます。それに伴いより精度の高い星の高度測定が求められ、四分儀が改良されて六分儀へと進化を遂げていきました。
以来、150年以上にわたり大洋航海を支えていきます。
六分儀はどの程度の精度を持っていたのでしょう。四分儀では最良の時で0.5分程度。分は1度の60分の1ですので四分儀でも100分の1度程度が観測できていたようです。そして六分儀が誕生した頃の六分儀は、0.2分程度。そして最近は0.1分程度まで観測できるようになっています。100%アナログな機構を用いて揺れる船内で0.1分の精度を確保できるのです。大洋上で仮に1分の誤差がでるとおよそ1.8kmの誤差に相当します。0.1分までの精度があれば数百メートル程度の誤差で自船の位置が求められることとなります。
このように星の高さを測って自船の位置を求めることを天測といいます。そして天測は星の高さを正確に測るだけではなく、天体の動きを正確に把握しておくなど総合的な科学技術が必要になってきます。
地球の自転によって天空上を動く星は1秒たりとも止まっていません。天測を行うときは秒単位での観測時刻の把握が必要になります。ここで登場したのが正確な時計、クロノメーターです。また天測の計算を簡略化するために、太陽・月・惑星、そして天測で使う明るい恒星44個の日々のデータを記載した図書も必要になります。更には三角関数表やLOG表も事前に用意されます。また星の高度測定においても低高度の星は大気の屈折が大きく、高高度の星は影響が少ない。そういった観測高度による補正。海水温度と大気温度の違いによる大気屈折率の補正といった経験から得られた知見が活用されていくのです。
大航海時代の産物のような六分儀ですが、実際に運用するためには多くの知見と現場の経験が必要になる。そんな科学技術の一端を教えてくれます。